牛の戸籍



▲鼻紋(びもん)

 市場に上る牛は、人間を識別する指紋にあたる鼻の模様「鼻紋(びもん)」で管理されている。鼻紋は一生変化しないので、牛を識別する唯一の手掛かりとなるのだ。
 この鼻紋を登録した人間の戸籍にあたるものが「子牛登記証明書」。全国和牛登録協会の各県支部が発行しており、父牛、母牛から祖父母、曾祖父と3代さかのぼった系図とともに、子牛の生まれた直後に押印された鼻紋が張り付けられている。何と人工授精師や子牛の検査を担当した委員の名前まで記載してあるから驚きの“品質保証”。
 松阪牛の素牛となる但馬牛の子牛市場では、将来有望な牛の品定めにこの“牛の戸籍”が重要な役割をもつ。
 霜降りの出来は血統に大きく左右されるからだ。父牛と、母牛の父、祖母牛の父はとくに注目され、その名前次第で子牛の競り値が10万円単位で変わってくるとか。
 この戸籍は、松阪肉牛共進会の出場申請の際にも必要で、肥育農家が持つ登記と全国和牛登録協会に保存されている鼻紋が一致しないと申請書が受理されない。生産農家から子牛市場、さらに肥育農家から肉牛の買い手、食肉処理場へと、子牛が枝肉になるまで、戸籍はついてまわる。